電子工作を始めるにあたって、最低限必要な工具は、はんだごて、こて台、ニッパ、ラジオペンチ、ピンセット、ドライバなどです。また、配線をするためには、ワイヤーストリッパが必要です。あると便利な工具は、リード折り曲げ器、ICピンそろった、放熱クリップ、基板スタンドなどです。それぞれについて簡単に説明します。

はんだごて

 はんだ付けするときに使う、一番大切な工具です。電子部品は熱に弱い部品が多く、細かく、静電気にも弱い部品が多いので、加熱し過ぎを防ぐために、最初は15ワットから20ワット程度で、漏れ電流が少なくICなどにダメージを与えにくく、使えるようになるまでの加熱時間が短く、温度の安定したセラミック・ヒーターのものが少し高価ですが良いでしょう。こて先の形状は、人によって言うことが違ったりしますが、筆者はとがったもの(写真6)よりも、加熱しやすい斜めに切ったような形状(写真7)が良いと思います。温度は380℃程度が使いやすいですが、はんだに鉛を使っていない環境に配慮した鉛フリーはんだを使いたい人は400℃程度ないと使いにくいと思います。

こて台

 はんだごては非常に高温になり、ヤケドの危険があるので、一時的にはんだごてを置くこて台は必ず用意してください。一時的に置くだけなので、置いたときに安定して、熱い部分に間違って触れない、抜き差ししやすいものが良いでしょう。お勧めは写真8のような、安定していて、熱い部分に触れられず、こて先の汚れを拭くための濡れたスポンジがあり、引っ掛かりがなくて抜き差ししやすく、角度も自由に変えられ、右利きでも左利きでも付け替えられるものです。

 ちなみに、筆者はハンダ付けの時にヤケドした事はほとんどありませんが、置いてあるはんだごてでヤケドした事は何度もあります。特に他人が置いたはんだごての存在を知らずにヤケドした事が多いので、学生には、こて先が露出するこて台は使用禁止令を出し、席を離れる時は必ずコンセントから抜くように指導してます。

ニッパ

 部品の足の余分な部分を切るためのものです。写真は細銅線専用のものですが、切った部品の足が飛び散らないようにストッパが付いています。また握りやすく使いやすいのでグッドデザイン賞を受賞したものですが、5千円程度とと高価なので、歯のかみ合わせが良い小型のもので十分使えます。

ラジオペンチ

 部品の足を曲げたり揃えたり巻き付けたり押さえたりするのに使います。写真のものは同じくグッドデザイン賞を受賞したものですが、小型で先端が揃って隙間のないものであれば十分です。挟む内側にギザギザのないものの方が部品の足に傷を付けずに済むので良いでしょう。

ピンセット

 ハンダ付けのときにヤケドをしないように部品の足を押さえたり、あとで説明するスズめっき線を押さえたりするのに使います。部品の足の切れ端を使って配線をするときに安い鉄製のものだと磁石になってしまって吸い付いて使いにくいので、ステンレス製の磁化しないものがおすすめですが、部品の足の切れ端をスズめっき線がわりに使わないお金持ちは安い鉄製でも十分です。

ドライバ

 ドライバは電子工作をしなくても各家庭にあると思いますが、油でベタベタになっていたり、必要なときに見付からなかったりするので、できれば電子工作専用のものを購入しましょう。M3ねじ用の2番のとM2.6ねじ用の1番のプラス、半固定抵抗を調整したりPICを抜いたりするのに使う先端の幅が4mm程度の小型のマイナスの3本あれば十分です。

ワイヤーストリッパ

 基板の裏や基板の外の部品と配線するときに、ラッピング線やビニール線の被覆(外側のビニールなど)をむくのに必要です。熟練すればニッパなどでも数回に一度むけなくはありませんが、芯線を傷付けて振動などで断線して故障の原因になりますので、あとで説明するユニバーサル基板を使わないで、プリント基板だけを使う場合は必要ありませんが、この本を読んでいるあなたは絶対に必要になりますので、AWG30(芯線の直径0.26mm)~AWG18(芯線の直径1mm)程度までに対応したものを用意してください。それ以上のものは大電流の配線をしたり電気配線をしないのであれば必要ありません。

リード折り曲げ器

 抵抗などを基板に寝かせて取り付けるときには先に足をこの字型に曲げてから基板に差し込みますが、これは曲げた足の間隔がユニバーサル基板などの穴の間隔に合うように曲げられるものです。きれいに曲げることにこだわらなければ、ラジオペンチでもできます。

ICピンそろった

 ICなどのピン数の多い部品の足を基板やICソケットに入れやすいように直角に曲げて揃えるのに使います。直角にこだわらなければ机の上やラジオペンチでできなくもありませんが、あると便利です。

放熱クリップ

放熱クリップの例

 スズめっき線をユニバーサル基板にハンダ付けするときに手で押さえているとヤケドしますし、ラジオペンチやピンセットでは片手がふさがって、はんだごてとはんだの両方を持ってハンダ付けするには手が足りなくなりますので、あると便利です。なければ目玉クリップなども使えなくはありません。

逆作用ピンセットという手もある

基板スタンド

 基板の裏を配線するときに、基板を固定しないとハンダ付けしにくいため、固定するためのもので、あると便利ですが、筆者は次の部品を付けるときに外すのが面倒で使いません。部品を取り付けるときに背の低い部品から付けるようにすれば、ほとんどの場合必要ありません。

『消耗品』

 それ以外にも作るたびに必要になる消耗品がいくつかあります。ハンダ付けするための糸はんだ、電源の配線をするためのスズめっき線、基板裏の配線に便利なラッピング線、基板外の配線に使うビニール線などです。

糸はんだ

電子工作用はんだの例

 ハンダ付けするときに溶かして付けるもので、ハンダ付けする部分の汚れやさびを溶かしてハンダを付きやすくするフラックスが中に入っている「ヤニ入りはんだ」を使います。電子工作では低い温度で溶けるスズ63%または60%のものがおすすめですが、近年、環境に有害な鉛を使わない無鉛はんだも売られていますので、少し高価ですが、こういった鉛フリーはんだもおすすめです。鉛は長年かけて体に蓄積してアレルギーの原因になるとも言われていますので、地球環境だけでなく自分の健康を守るためにも鉛フリーが良いかも知れません。糸はんだの太さは、直径0.8mmあるいは1.0mmが使いやすいでしょう。筆者は直径1.2mmのハンダで隙間が0.3mmしかない100本のICのピンをハンダ付けしたりしてますが…

スズめっき線

 電源の配線をするときに、接続点が多いため、あとで説明するラッピング線やビニール線だと、むいてハンダ付けするのが大変ですし、1箇所に2本の線をハンダ付けしようとしてはんだごてを当てると先に付けた線が取れたりして、かなり大変ですので、普通は裸線の単線(芯線が1本だけの線)であるスズめっき線を使います。中身は銅線なのですが、銅はさびやすくハンダ付けしにくいので、さびにくいスズでめっきした線を使います。ただし、スズめっき線はハンダ付けしにくいので、手に入るならば、ハンダメッキされているハンダメッキ線や、銀メッキ線を使います。なお、部品の足ははんだメッキされている場合が多いので、短くて良ければ、抵抗やコンデンサなどの部品の足の切れ端を保管しておいて使うと便利で経済的です。

ラッピング線

 基板裏の配線は、部品の足の切れ端やスズめっき線を使うと楽ですが、これらの線は裸線なので交差するとショートしてしまいます。ショートしないように浮かせて付ける学生が居ますが、これは基板を置いたときにショートしたりチェックするときに調べにくく修理や調整もしにくくなりますので、絶対にやめてください。一般的に配線や部品を固定せずに空中で行うことを「空中配線」と呼び、不安定で下手な配線の代名詞となります。ラッピング線は、単線をビニールやテフロン樹脂などで被覆して絶縁(電気を通さなく)したもので、交差させることもできますし、線自体が曲がりにくいので固定しなくてもブラブラしなくて、むいてそのままハンダ付けできますし便利です。ただし、もともと巻きつけて配線するための電線なので、ハンダが付きにくいのが難点です。仕事で使うときには、銀めっきされた単線をテフロンで被覆したジュンフロン線(商品名)を使うことが多いです。線の太さはAWG30(0.25mm)またはAWG28(0.3mm)が使いやすいと思います。

ビニール線

 基板外の配線に使います。基板外の配線にラッピング線などの単線を使うと、何度も曲げると中の芯線が断線してしかも被覆で中が見えずに断線していることがわからず原因を探すのが難しくなりますので、基板外の配線にラッピング線を使ってはいけません。太さはAWG24(0.5mm)~AWG18(1mm)程度が使いやすいです。もちろん流す電流が多いときには太い線を使わなくてはなりませんが、乾電池で動作するような本書の回路では、扱いやすいこの程度の太さで十分です。色は10色あると良いのですが、最低でも赤、黒、白などの3色を用意しておきます。これは、電源のプラスは赤、電源のマイナスは黒、それ以外は赤黒と区別する習慣があるからで、これは日本工業規格(JIS)でも決まっていますし、アメリカ工業標準(ANSI)や国際標準化機構(ISO)でも同様に規定されています。